目 次

『星を追う子ども』ミニ演奏会 @キネカ大森 (9月15日)
『星を追う子ども』スタッフ座談会 @キネカ大森 (9月15日)
『星を追う子ども』トークショー&プレゼント大会 @キネカ大森 (9月3日)
『星を追う子ども』凱旋上映記念舞台挨拶 @テアトル新宿 (7月16日)
星を追う子どもスペシャルナイト Vol.4「『星を追う子ども』を論じる」@シネマサンシャイン池袋(6月23日)
星を追う子どもスペシャルナイト Vol.3「『星を追う子ども』を読む」@シネマサンシャイン池袋(6月16日)
星を追う子どもスペシャルナイト Vol.2「『星を追う子ども』を語る」@シネマサンシャイン池袋(6月9日)
『星を追う子ども』大ヒット御礼舞台挨拶 @新宿バルト96月7日)
星を追う子どもスペシャルナイト Vol.1「『星を追う子ども』を聴く」@シネマサンシャイン池袋(6月2日)
『星を追う子ども』公開記念 『秒速5センチメートル』上映&ティーチイン@キネカ大森(5月12日)

『星を追う子ども』ミニ演奏会 @キネカ大森

新海:それでは、お待たせしました。音楽をやってくださいました天門さんとアレンジをやってくださいました多田さんをお招きしたいと思います。みなさん拍手でお迎えください。奥に座ってらっしゃるのが『ほしのこえ』という作品を作った頃から音楽をずっと一緒にやってくれている天門さんです。天門さん、自己紹介お願いします。

天門:『星を追う子ども』の音楽を担当させていただきました天門です。今日はよろしくお願いします。

新海:天門さんは昔、僕と同じゲーム会社に勤めてらっしゃったんですよね。ゲームの映像を僕が作って、天門さんがその会社のゲーム音楽を作ってらっしゃって。そこで一緒に仕事をしたことが、こんな風に一緒に映画を作り始めるきっかけですよね。

天門:そうですね。最初は新海さんから、自主制作しているムービーの音楽を担当してくれないかってお話をいただいたんですよね。

新海:個人的にお願いして、っていうね。それが今、気付けばたくさんの方々と映画を一緒に作る事になっていて。多田さんは「Promise」という僕たちの作品のイメージアルバムを出した時にご参加いただいたんですが、最初から音楽制作でのお力をお貸しいただいたのは今回が初めてになります。一言いただけますか?

多田:今回は天門さんの音楽をオーケストラで録音するということで、その編曲をさせたいただいきました、多田彰文と申します。よろしくお願いいたします。編曲というのは、天門さんが作曲で核になるメロディを作ったものを、僕がオーケストラの楽器の編成に合わせて、料理でいえば盛りつけなおす役目をさせていただきました。

新海:今まではずっと、映像をある程度作ってから、その映像に合わせて天門さんがシンセサイザーで作曲をしてくるというやり取りをしてきたわけですけども、今回は天門さんが作ったシンセサイザーの楽曲を、多田さんがさらにもう一度シンセにしてましたよね。あれはシンセでもう一度再現なさる時に、オーケストラでどう構成するかって事を考えながらやってらっしゃるんですか?

多田:そうですね、今回はそうさせていただきました。通常だと僕らはスコア譜という段数の多い五線紙に描いてしまうんですね。いきなり描いてそれを演奏していただくという形にするんですが、それだと僕がどういうアレンジをしているのか録るまで分からないので、シミュレーションで機械を使って「だいたいこういう風になりますよ」と再現をしました。

新海:なるほど。僕のような音楽畑でないものにとってはすごく分かりやすかったです。天門さんの作られた曲が、オーケストラで録る前なんだけどだいたいこういう形になるというのが分かるよう、毎回ご提案いただいてたので、分かりやすい形だなあと思ってやっていました。
今回の『星を追う子ども』では多田さんが加わって、指揮棒を振るところまでやってらっしゃったわけですが、どのような収録現場だったのか、もしくはサントラの聞きごたえ箇所など、楽曲解説を多田さんからいただけますか?

多田:録音するときの一番印象深い曲は、オープニングの、映画でも最初に流れる曲ですね。一番最初に録音した曲で、僕も一番最初に指揮棒を振って、音が実際に流れて、すごく感慨深い曲でしたね。録音では映画に流れてくる音楽の順番でほぼ録音したんですよ。

新海:1回しか見てない人は、どの曲か分からないかもしれないんで、「こんな曲です」って頭だけさらっとできますか?

天門:熊木さんの主題歌なんですよ。

(天門、シンセサイザーで演奏)

新海:なるほど、このメロディですね。天門さん、弾けるんですねピアノ。(会場笑) ちょっと素敵に見えてきました(笑)。実は収録の時って譜面をめくってる音っていうのがよくあるんだよっていうお話が、さっき多田さんからあったんですけど。

多田:そうなんですよ。今回発売させていただいてるサウンドトラックも、ヘッドホンなどで聞いていただけると、ごくわずかな音ですが途中で譜面をめくってる音や、演奏している時の服のこすれ合うノイズが入っているんです。ヴァイオリンやチェロの方など曲がとっても長いですし、楽器とマイクの位置が約3m離れているところから録っていて、すごく感度のいいものを使ってるが故に、そういう音までもマイクが拾ってしまうんですね。例えば、「せーの」で演奏するときの息を吸う音とか、そういう音も入るんです。できるだけ入らないようにって努力はするんですけど、昨今のハリウッドの映画なんかだと、それも音楽の一つなんだっていう主張であまり気にしない。日本はわりと気にする方なんですけれども、注意する中にもそういう音が入ってしまうのはいたしかたない事で。逆にヘッドホンでじっくり聞いていただいたりすると、自分がまるでオーケストラの真ん中で演奏を聞いているような感じに思っていただけるんではないかなと思います。

新海:そんな事は知らなくて本当に驚きました。生でやってるんだから、本当はそういうところまで入るはずだって事なんでしょうね。作画にしてもエンピツのかすれが良かったり、背景美術に筆の跡があったりするのが、この緻密は絵は本当に人が描いてるんだと思ったりしますが、音楽にもそういうところがあるんだなと思いました。

多田:このプロジェクトではないんですけれども面白いエピソードがありまして、自分が指揮棒を振っている時に、すごく緊張感のあるシーンで、普段の運動不足が祟ったのか、指揮を振っているときに思わず肩がポキッと鳴ったんですよ。その音をマイクが拾ってしまって(笑)。ポーカーフェイスでいたんですけれども心の中ではすごく動揺していまして、その後、棒を振り間違えて演奏を止めちゃったっていう事がありました(笑)。それくらい、本当に感度のいいマイクなんですよ。

新海:面白いお話ですね。この後お二人に演奏していただくんですが、その前に楽曲解説的なお話を少しだけ。天門さん、今回の映画はアスナ、シン、シュン、モリサキとそれぞれテーマを作っていただいたんですよね。

天門:はい、そうですね。

新海:映画を普通に見ているとなかなか気付かないんですが、アスナにとっての重要なシーンではアスナのメロディが、モリサキにとっての重要なシーンではモリサキのメロディが流れるんですよね。

天門:アスナは主題歌の…

(天門、シンセサイザーで演奏)

新海:熊木杏里さんの「Hello Goodbye & Hello」ですね。サントラのトラックナンバー8「回想」という、アスナの子供時代のお墓参りのシーンや、狭間の海のほとりでシンが初めて「アスナ」とつぶやいた直後にもこのメロディが流れたりしますよね。そういう、「ここはこのキャラクターの心情が重要なんだよ」というシーンで奏でてるんですよね。

天門:あと、狭間の海の前あたりでも、多田さんのアイデアですごく微かに…

多田:「アルカンジェリ」ですね。


新海:これはなかなか言葉だけではお伝えしにくいんですが、ブルーレイのオーディオコメンタリーで喋っているのでご興味ある方はそちらを聞いてもらえると確実なんですけど…(笑)。アスナとシンがアルカジェリの手から逃れて洞窟の中に一時期隠れて2人で会話している時に、すごい不安げなメロディで今の曲が奏でられたりもしてるんですよね。それは多田さんに作っていただいた部分なんです。では、モリサキのテーマはどの曲ですか?

(天門、シンセサイザーで演奏)

ありがとうございます。この曲はモリサキのオルゴールの曲なんですけれども、実は劇中の効果音として使うために実物を作ったんです。リサとの思い出のメロディですね。

多田:本邦初公開ですよね。

新海:そうなんです。作ったんですけど、劇中の絵より豪華なオルゴールになってしまって(会場笑)、ちょっと音の質が違うよね、ということで使われませんでした(笑)。

天門:僕も今日初めて見たんです。知らなかった。

新海:今度はシュンの曲について教えてください。シュンのメロディ、例えばアスナがシュンにキスをされた直後から流れるメロディがありますが、どんなメロディですか?

(天門、シンセサイザーで演奏)

天門:シュンに関しては短くて、これくらいしかないんですが…。

新海:シュンは登場時間も短いですしね。後半でアスナが夷族から走り回って逃げていて、シュンの「祝福をあげる」というセリフを思い出した時にふとこのメロディがかかるんですよ。そこがね、すごく彼女の心情にリンクしているので、ぜひもう一度見る機会があったらそこに注目して見ていただきたいなと思いますね。ではもう1曲だけ、シンのメロディを教えていただけます?

天門:はい、シンは、えーっと…

(天門、シンセサイザーで演奏)

新海:この基本のメロディを多田さんが様々なアレンジをして、シンが登場してくるシーンでは実はほとんどこの曲が流れているわけですよね。それも、毎回同じ曲だと「またあの曲だ」となっちゃうので、雰囲気を違うものにして、でもメロディとしては同じっていうアレンジで。繰り返し2時間の中で奏で続けて、最後に「Hello Goodbye & Hello」のヴォーカルが入るという、そこ収束する感じで音楽を構成していただきましたね。

多田:そうですね。ふんだんに劇中の音楽のいたるところに散りばめる事が出来るっていうのは、すごくやりがいがありました。

新海:ありがとうございます。そろそろお心の準備がよろしければ、演奏を聞かせていただいてよろしいですか?今日はミニ演奏会という事で1曲だけですが、映画館で音楽を聞くことってなかなかないと思いますので、楽しんでいただければと思います。僕も初めて聞くので楽しみです。それでは、楽曲の解説などありますでしょうか。

天門:オープニングの曲を演奏します。

多田:みなさんが最初に耳にする音楽なので、そういった意味では初めて見た方でも、これはなんとなく思い出してもらえるんじゃないのかなと。

新海:はい。じゃあよろしくお願いします。

(天門・シンセサイザー、多田・アコースティックギターにて 演奏)

ありがとうございました(会場拍手)。久しぶりにこの音楽を生で聞かせていただく事ができて、映画館でのフィルム上映の最後にふさわしい時間をいただきました。ありがとうございました。
それでは最後に一言ずついただけますか?

多田:私自身も制作の段階からこの映画を見てるんですけど、一番盛り上がるクライマックスのシーンを作ってる時に、映像と物語の世界に引きずり込まれてしまって、監督に思わずスカイプしたんですよね。その当時題名がついていなかったので「M39」という仮の名前だったんですけども、いきなり監督に「今M39をやってるんですけども、涙でスクリーンが見えません」って送って(笑)。監督からの返事が「えっ、それって褒め言葉なんですか、どちらなんですか」って。(会場笑) そんなやり取りがあったくらい、やっている途中で感極まってしまったというか。いい意味で前に進めないんですよね。物語がガンガン入ってきてしまうんで、それに負けない音楽を天門さんからいただいたメロディから編曲したいなって思いがすごいあって。そういうこともありがながら出来上がったものなのですごく感慨深いものでしたし、そういう気持ちを皆さまと共有できると嬉しいなと思います。

天門:ピアノ、ちょっと間違えちゃって、すみません。今回の映画は一番規模が大きいということで、自分の音楽がオーケストラで演奏されるというのが本当に夢心地なようで。録音の時、映像を見ながら皆さん弾いてらっしゃって、生の演奏が聞けて本当に役得というか…。

新海:役得というか、天門さんが作った曲ですからね(笑)。

天門:でも、すごく嬉しかったですね。それに尽きますね。

多田:すでに録音の時に泣いてるスタッフの方もいらっしゃいましたよね。

新海:そうなんですよ。撮影の李さんはミミとの別れのシーンですでに泣いていて(笑)。まだ出来上がってないうちから、スタッフも気持ちを入れて作ってくれた作品で、完成したこと自体も嬉しかったんですけど、それをこんな風に長い期間見ていただけたことも幸せな作品でした。
短い時間でしたが、多田さんと天門さんでした。みなさん拍手でお見送りください。

(天門、多田 退場)

今日はみなさん、長い時間イベントにお付き合いいただき、ありがとうございました。ようやく11月25日にBDとDVDが発売になります。今まだ頑張って映像特典を作っているところではあるんですが、ブルーレイの方にはオーディオコメンタリーや、特別限定生産版のBOXの方には、作りおろしの新規のカットが入った「Hello Goodbye & Hello」のPVなどをつけております。それにはシンやシュンの子供時代の一瞬とか、モリサキのリサを亡くした後の短い映像なんかも入ってますのでご興味のある方はぜひ、お手にお取りください。明日でこのキネカ大森での上映は最後になりますが、本当に長い間この作品にお付き合いいただきありがとうございました。

このあと、ジャンケン大会が行われ、サイン入りの「星を追う子ども」アフレコ台本と、韓国での公開時に韓国で作られた「星を追う子ども」うちわを、それぞれ5名の方にプレゼントされました。
当選された皆様、おめでとうございました!

(2011年9月15日)

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