まかせてイルか! イルか屋って何?ニュース制作ノートスタッフキャストキャラクター
e-mail cwfilms
-irukaya.com
『まかせてイルか!』 手話チェックレポート〜!

「お、俺はもうダメだ・・・手話チェック・・・頼む!(ガクッ)」
と言ったかどうかは定かではありませんが、この日どうしても都合がつかなくなってしまった大地監督。まかせてカントく!来た依頼は断りません!「手話チェック」行ってきますとも!!と意気盛んにタスキを受け取ったあたくし。

・・・ん?「しゅわちぇっくぅ」??
 はじめて耳にする言葉ゆえどんな作業か見当がつかず、スタッフさんに伺った。「簡単に言えば、手話の動画がきちんとその意味を伝えるように作られているかチェックすることです。」「・・・???」あのぅあたくしにも分かるようにもうちょい簡潔に・・・(汗)
イェイッ!!てっとり早く見ちゃうのが一番だぜ!と勢いのみでやってきました制作現場。中に入るとスタッフさん達が真剣な表情で一台のディスプレイを見つめています。わっもう「手話チェック」とやらが始まっているのですね。わりこみわりこみ覗き込んでみると、うわあっ碧ちゃんが動いてるっ!いやん、かーわいい♪初めて見て感激。はあ?来た甲斐あったな、満足×2?!・・・じゃなくて「手話チェック」に来たんだよっ!

 さて、どうやらこの碧ちゃんの手話の動画を一つ一つチェックしていくようです。一コマ一コマの連動において手話が正確なタイミングになっているか、動きの意味は合っているかと目を光らせていきます。アドバイザーは「きいろぐみ」代表の南留花さん。とても真剣な表情で画面を見つめていらっしゃいます。タイミングや動きが少しでも違うと、意味が変わってきてしまう手話。そのチェックは当然ですが、留花さんはさらに、手話アニメーションを「いかに見せるか」ということにとてもこだわりを持っていらっしゃいました。

 着いた時には丁度、『イルか屋始まって以来の大仕事』という手話をチェックしているところでした。「ああ、この碧ちゃんはすごくいいですね。『仕事』という手話が始まる時に「引き」があるのがすごくいいです。こうすれば手話がきわだつので、目がいきますね。」と留花さん。
その後の『毎度ありっ』という手話では「う?ん、最後の「引き」のポーズがすでに『ありがとう』という意味の手話に見えてしまいますね。この「引き」を削ってむしろその分、出だしのポーズの尺を長くしてください。」と次々に指示。それにしてもよく出てくるこの「引き」とは?これは手話に入る時の一瞬の「タメ」というか「あそび」といいましょうか。手話の動きに入る時のアクセントのような一瞬の動きです。それがなくても手話の意味そのものに影響はないのでしょうが、留花さんはその「引き」にこだわることによって、よりリアルで美しい手話の動きを出そうと苦心されているようでした。「『イルか屋』の『イ』はこのタイミングで入れてください。」「いいですね、メリハリが出ました。」とその他のアドバイスも。

 『稼いだお金は貯めてるのよ』という場面では、「出来ればシャカシャカシャカ、ホイ、トントントン(手を動かす)というリズムで止めの間が入るといいです。そうすれば『お金』という意味の動きがひきたって見えてくるから。」とご自身も一生懸命動きながら、アニメーターの方々にイメージやリズムを伝えようとしています。「すみません、もう一度、ここのコマの尺を長くしてください。」「あ、やっぱり戻してください。」「ちょっと途中の画を捨てた方が良くなるかも。」「ここにもう一コマ入れられませんか。」「うーん、違うなあ。なんだろうなぁ。このニュアンスを出したいのよねェ・・・」一連の手話に何度も何度も注文を出される留花さん、その注文にテキパキと応え、すかさずタイミングを調整していく大塚さん。これが何度も何度も何度もくりかえされる。「あ、良くなったなった、すごいすごい。これでお願いします!」

 見学している内に、留花さんがこだわられていることが段々わかってきました。ジャズダンスのように(監督はカンフーだと言っています)止めやタイミングでメリハリをつけるととても手話らしい。最初と最後、そのタイミング、呼吸をビシッと決めたい!たっぷり見せるところ、スピーディーに見せるところ、決めのポーズ。すべての動きが語りかけるように、と。

 考えてみれば言葉を話す時、わたしたちはそうしています。強調したいところ、ダラダラと喋ってもいいところ、強弱・緩急・間とメリハリをつけています。聴く人をひきつける話し方も、手話のアピールも同じことなんだなあと実感しました。そしてさらに手話とは決して手の動きのみならず、表情そして身体全体で表現するものということも認識しました。碧ちゃんの表情も楽しい顔、苦々しい表情とくるくる変わり、とっても生き生きしていますヨ♪

 このように一つの手話ごとに非常にじっくりと時間を掛けながら直してきた数々の場面。途中休憩の後はいよいよ本日のハイライト!!工場を解雇されかけそうなゴメスを弁護する碧ちゃんの長台詞(長手話?)です。
「むしろポンコツ機2台を処分してゴメスの給料を3倍にしても彼を雇っていれば、年間最低300万の利益が出ることとになります。(・・・中略・・・)工場全体の生産力はアップすること請け合いですっ」長っ、なんて長いんだぁ!
これら手話を描いたアニメーターの方々も凄まじい、素晴らしいです!台詞だったら口がパクパクするのみで済むところを、すべて手から全身からで表現させるのですから。さあ、どこから手をつけていけばよいのやら。もう一度イメージをはっきりさせるため、碧ちゃんの手話のお手本となりました「きいろぐみ」のSUMIEさんの手話映像もチェックしたりもしながら取りかかっていきます。
「手話と口パクが合っていないですね。口は動かすのでしょうか。」碧ちゃんの息と手話が一致するかということも想定して、タイミングをはかる留花さん。
「『処分』は思いきりよく捨てるイメージでビシッと遠くに決めたいですね。」
「あ、親指が立っていますね、これだと3倍という意味が8倍になってしまっています。」
「ああっ、『万』が指が立ってしまっているため『千』になってしまって意味が違っていますね。」とこればかりは申し訳ないですが画の直しを依頼することも。
「『雇う』という動きですが、最後、手を体のど真ん中に、そう、ここに持ってきたいのですよね。」言葉のニュアンスをはっきり出すためのポイントを力説される留花さん。
「300万円ですが、こうサラッと手を下から上にあげるだけだと、300という印象が薄くなってしまうから立ち上がりと止めをはっきりと。」利益は「ガッポリという感じで。遠くから力強く自分の方にひきよせる感じで。」例によって1コマ1コマ丁寧に何度も微調整をかけていきます。

 最後、留花さんは『年間』という手話のイメージで相当四苦八苦されていました。「一年」という時間の「長さ」と「深み」を出したいのだけど、今の画だとすごくあっさり見えてしまう。それをどうしたらいいのか。この手話は片腕を目の前に横に出し、その周りでもう一方の手を回転させるという動き(説明下手っ)で、留花さんは、その回転によって深みのニュアンスを出すにはどういう調節をすればいいか、何度も指示を変えられては「違うなあ」と言い続けておられました。「一年間という時間の重みはどうやったら出るのかなあ。」ずっと納得しない留花さん。先ほどと同じく、コマの尺を長くしたり短くしたり、省いたり、別のコマを挿入したりして動きを調整してみたものの、どれも留花さんのイメージされている画にどうしてもならなかったようです。相当な時間を経て、「ああ、これは根本的に直さないと直らないですね。」と仰り、今日はこれまでと、手話チェックは終了いたしました。

その後、留花さんはスタッフの方々に、直しや付け足しを依頼されていました。時間もない、ギリギリのところで頑張っていらっしゃるスタッフさん達に、限られた時間は残り少ないけれど、作品の為にどうしても必要だという想いを、言葉を上手に選ばれ、伝えられていました。そしてもちろん皆様もそれをバッチリ受け止め、最高の映像に仕上げてくださったのだと思います。
画面上では速すぎてあっと言う間に終わってしまう手話。しかしその意味をきちんと伝え、なおかつその一瞬の中にもカッコ良さ、見どころをつくりたいという情熱を感じることが出来ました。本当に貴重な制作の場を取材させていただいて嬉しかったです。 日本初の手話アニメ、一コマ一コマの動きにこだわりにこだわった碧ちゃんの動きを御期待ください。そしてこれを通して、手話の面白さなどを伝えることが出来たなら素晴らしいことだと思います。もちろん見どころはほかにもありますが(というか全場面ですよ?♪)、手話のシーン作成にある実に細かい配慮と、それをよりエネルギッシュに表現しようとする現場のメッセージを受け取っていただければ何よりです。

それではひきつづき『まかせてイルか!』が出来るまでお楽しみに☆
またお会いしましょう!
            

 
text by 新子夏代(給食のおばちゃん)
copyright 大地丙太郎・☆画プロ/CW